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「我が名はゼロ!・・・え~と、なんだっけ?え~と、あ、そうだ。いいか、弱い者いじめはこの私が許さないぞ!!」 ブリタニア軍の前に姿を現し、堂々と胸を張りながら宣言したのは、テロリストグループ黒の騎士団の指揮官、ゼロのコスプレをした男だった。 そう、コスプレ。 誰もが一目で偽物と解る姿だった。 解らない者がいたなら、速攻で病院に入れられるだろう。 そのぐらい、THE・偽物という姿なのだ。 そんな男が、ブリタニア軍の前に立ちはだかり、ゼロを名乗っている。 自分はゼロなのだと、自信満々に胸を張っている。 これは本気なのだろうか。 コーネリアはしばし考え、本気だとしたら世も末だなと額を抑えた。 ゼロを名乗る偽物は、おそらく黒のロングコートだろうと思われる、丈の長い服の袖を首元で縛り、それをマント代わりにしている。 着ている服は黒のつなぎ。 パイロットスーツではなく、作業服のつなぎだ。 足は黒の長ぐつ、手には白の軍手(黒は見つからなかったのだろう) そして頭には黒のフルフェイスヘルメット。 バイク用のヘルメットは比較的まともと言いたいのだが、その額にはZEROと白く書かれており、それがこの格好をますます滑稽なものとしていた。 これはゼロの策略だろうか。 こんなふざけた格好の偽物を、あからさまに偽物と解る影武者を用立てて、こちらを欺くつもりなのか・・・となれば、そちらに意識を集中させている間に、本物は? まて、落ち着くんだ。 こんなものが囮になるとゼロが本気で考えていると? いや、それは無い、これはゼロを語る愉快犯。 それ以外にあるはずがない。 ---コーネリアは偽ゼロを目にしてから、軽く混乱していた。 「君達がやっている事は悪い事だ!人質を解放し、投降すれば手荒な事はしない」 その愉快犯は、堂々と胸を張りながら・・・銃を構えたテロリストの前に立っていた。 そう、テロリストの前に、テロリストを模した愉快犯が立っているのだ。 今現在、エリアで最も大きな銀行が、黒の騎士団とは別のテロリストの手によって襲撃を受け、その制圧のため、コーネリア率いるブリタニア軍が動いた。 ブリタニア人の多くが使用する最大手の銀行だ。ここが万が一爆破などされれば、どれほどの被害が出るか計り知れない。 厳重な管理がされている銀行だから、テロリストの爆発物程度なら、建物は吹き飛んでも金庫の中身は無事だろう。だが、コーネリアのいるトウキョウ政庁のすぐ傍で、このような事が起き、最悪自爆テロが成功してしまえば面目丸つぶれだ。 銀行周辺の建物もすぐさま封鎖され、この一角は銀行内の者たちとブリタニア軍だけがいる空間となっていた。・・・はずだった。 そんな緊張した場面に、この男が現れたのだ。 こんな馬鹿げた姿で。 気がふれた人間か、自殺志願者か。 あるいは、本気でテロリストから市民を守ろうとしているのか。 軍が動けば死人が出る。 ゼロは動くか解らない。 だがらゼロを名乗り、話しあい、説得しようとしているのだろうか。 もしそうだとしたならば。 頭には少々難がありそうだが、度胸は良し。 だが、それはあまりにも愚かな行為だった。 「これは勇敢とは言わない、蛮勇だ」 コーネリアは冷静な声で呟いた。 このコスプレ男に対し、好感を抱いているかのようなコーネリアに、ギルフォードは目を向いて驚いた。てっきり邪魔なこの異常者に対し、邪魔だと、馬鹿にするなと、無礼だと怒鳴りつけると思っていたのだ。 別に好感を抱いているわけではない。 ただ、もしこの人物が正常な人間で、本当に正義のためと思い動いたのだとしたら、囚われたブリタニア人とイレブンを救うために、似ても似つかない不格好なものではあるが、仮面のテロリスト・ゼロを利用したのだとしたならば。 ここで失うには惜しい人材だったかもしれないと、思っただけだ。 自分の配下として使えるかどうかはともかく、自分の思う事のために命すら掛けるその気概。このエリアのブリタニア軍には不足しているものだった。 だが、そんな事は、考えても無駄な事だった。 テロリスト側からも、ブリタニア側からも馬鹿にしていると判断される格好。 どちらからも受け入れられる事のない、偽のゼロ。 もし、この後生き残れたとしても、捕縛された後に厳重な処罰を受けることは確定している。ブリタニア人なら売国奴、主義者と扱われ、イレブンなら・・・どちらにせよ、二度と日の目を見る事はないだろう。 「前門の虎、後門の狼か。自ら死地に赴くとは、愚かな」 再び呟いた時、慌ただしい声が聞こえてきた。 「総督!黒の騎士団です!!」 「何?」 「騎士団だと!?」 声に反応したギルフォードは、モニターを操作した。 表示された画面を見て、コーネリアは目を細めた。 「本物の、登場か」 愚か者が増えたなと、コーネリアは口元に笑みを浮かべた。 |